サクラ大戦V妄想回顧録

夢か現か…思い入れ深く『サクラ大戦』をプレイした結果、そこでの体験がリアルなもう一つの人生経験のように感じている…そういう方々が、実はプレイヤーの中には多々いらっしゃるのではないかと思います。サクラとはそんなミラクルが生じた作品であり、わたくしもそのミラクルにあてられた一人。そんなわたくしが、かつて“太正”時代に“経験”した事を記憶が混濁したまま綴ります。今思い出しているのは1928年以降の紐育の記憶。これは新次郎であり、現代の他人であり…という、人格の混ざった記憶それ自身による、混乱した、妄想回顧録です

リアリティのダンス / マルクトからイェソドへ / 32号線を往く/ 九条昴問答⑥

 

rbr.hatenablog.jp

 

前回からの続きです。

 

茹だる熱帯夜。上空300m。当時建築中であったエンパイアステートビルディングの頂上付近、大きく中空に張り出したその剥き出しの鉄骨の突端で、昴さんと僕との哲学的問答は続いている… 

 

はずでしたが…

 

不思議な甘い香りと共に昴さんの周りに桃色の煌めきが舞い始めたと思った刹那、気付けば、僕と昴さんは、曰く『想像界』とでもいうべき、夢の領域へと足を踏み入れていました。

 

それは霊薬『砒霜』の効果と、昴さんによる霊的導きによるものでした。

 

そして『想像界』の “地図” を確認した我々は、物質世界『マルクト(王国)』から、想像界の入り口『イェソド(基礎)』を目指すべく、中央の道『タウ』を往く事になりました。

 

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ーーでは、気分を変えて改めて行ってみようか。ピンク色のお猿が出て来たしね。…リカのキャラクターは妙にピンクが多いな…

 

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昴さんの仰る通り、目の前にジャングルレビューのお猿が元気に飛び出して来ました。確かにリカのレビューショウのキャラクターです。お猿は無邪気に飛び跳ねると、先程の地図の上で楽しそうにケンケンパを始めました。

 

ケンケンパ、ケンケンパ…

 

先に進むにつれてお猿の輪郭はどんどんブレてゆき、最終的に光になって消えました。

 

ーーWelcome to route 32! そしてようこそ! ヨモツヒラサカへっ!

 

そこへ唐突に黄色い声が被さって来ました。しかし、昴さんのお声です。確かに昴さんのお声なのですが、それは今まで舞台上でも聞いた事がないほどに、ポップでキャンプな、少年か少女か、ともかく小さな子供のようなお声でした。

 

混乱しながらも声のした方を見上げると、帝都花組さんの歌謡ショウの衣装でしょうか… なぜかしら、西遊記沙悟浄の格好をしたもうひとりの昴さんが、ふわふわと空中を漂っていました。

 

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ーーなぜ河童なんだ。

 

他にもっと聞きたい事があるのに… とは思いましたが、とにかくも、隣にいる… オリジナル昴さんがそう問いかけます。

 

ーーアタマにお皿があるからだよ。受け入れ上手なのっ!

 

成る程な… と隣の昴さんは即座に納得してしまいましたが、それでは僕にとっては意味不明なままです。焦り説明を求めると…

 

ーーすまない。確かに説明が必要だね。あの昴はどうやら『杯』の担当らしい。つまりは『共感力』の担当だ。

 

共感力…? 杯…? 結局よく分からないワードが並べられ、ますます混乱していきます。

 

ーーところで、ねえ、そこのあなた… あなたのおかあさんって、もしかして、ちょっと気の強い人だったりする…?

 

ふと河童の昴さんにそう問いかけられ、思わず答えてしまいます。

 

ああ、うん。そうなんだ。すごく元気な人で、明るい人なんだけど、確かにちょっと気が強いところがあって…

 

ーー昴、悪いな。今回はその辺は端折る事にするよ。彼はここに来るのは初めてだし、今回は、イェソドの入り口を下見に来ただけだから。

 

ーーあ、なーんだ。じゃあ、本格的な修行はまだなの?

 

ーーそういう訳だ。悪いね。他の3人にも伝えてくれ。

 

ーー昴は言った! うん、わかった! じゃあ、その子が落っこちないように、昴も気をつけてあげてね! って。

 

河童の昴さんはそう言うと、パシャリと水しぶきを上げながら、去って行きました。

 

ーー成る程、水のエレメントの説明も兼ねている訳か。上手いものだな。

 

依然訳知り顔の昴さんに説明を求めるのを諦めると、今度は目の前に車が出現しました。ラチェットさんの乗っているような、マッシブなスーパーカーでした。

 

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ーーでは、ここからは飛ばして行こう。さっきの昴が言ったように、本来は精神の修練を経なければ、道を進む事さえ出来ないのだが…

 

え… でも、それじゃあ、その… 車で進んでしまって良いんですか?

 

ーー僕がいればね。でなければ普通は、正気を失うか、正気を失う事への拒否反応で死んでしまうが。…心配はいらない。今回は “下見” だと言っただろう?

 

全く安心出来るような説明ではありませんでしたが、ひとまず助手席に乗りこむと、昴さんはエンジンを蒸しました。

 

ーーそれに “car” の原語は “ケルト人(未知なる人)の二輪の戦車” だ。さらには “威厳” “荘厳” という意味とも関わって来た。“荘厳なる戦車” とは、大アルカナの『戦車』の事で、実は、かの王子の乗る戦車の車輪は地面にめり込んでいる。つまり、実は自分で進む必要すらなく、惑星に運んでもらうんだよ。この車のタイヤも地面にめり込んでいるだろう? surrender… 要は “身を委ね” れば良いのさ。

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上体を乗り出して確認してみると、確かにタイヤは地面に溶け込んでいました。地面の方が動いている様です。

 

昴さんは軽快に32号線を飛ばし始めました。

 

ーー本来この32号線… 黄泉比良坂を往くには、錬金術的修行が必要でね。その修行とは、錬金術の四つの魔法の武器… つまりは四つの元素、『棒』『剣』『杯』『貨幣』についてのものだ。物質的次元から想像界へと至るには、その四つの元素の習得と、理解の深化が不可欠なんだ。

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四つの元素… あの、その四つって、もしかして…

 

ーートランプカードのことを言っているのであれば、合っている。正解だ。トランプの四要素は、ネタ元であるタロットから引き継がれているからね。

 

では恐らく『棒』はクラブで、『剣』がスペード、『杯』はハートで、『貨幣』がダイヤかな… と、そこまで察する事は出来ました。

 

ーーだが、トランプ… つまりは英国のプレイングカードのことだが、あれはタロットから重要な26枚を抜いた、あくまで遊戯用のデッキなんだ。そして26という数字は即ち、ヘブライ語の神聖四字、ヨッド、へー、ヴァヴ、へー、に割り振られた数価の合計でもある。つまり26とは、主なるもの、神を表す数字でもあるから、畢竟、あれは “神不在” のデッキという事になる。

 

神不在…

 

ーー英国は様々な民族の連合国で、だから種々の民族の神話や古代の宗教観も脈々と受け継がれてはいるが、大枠としての大英帝国は、今ではすっかり唯物主義の科学至上主義に陥ってしまった。シャーロック・ホームズという存在からも分かるだろう。科学と理論を駆使すれば、世の万物を説明出来ると過誤した、あれは英国の帝国主義的思想の現れでもあるからね。

 

実は僕自身はシャーロック・ホームズの大ファンでしたが、だからこそ、やや手厳しい昴さんの仰りようも分かりました。あの頃流行ったオリエンタリズム的な嗜好や憧れとはつまり、実際には東側の国々を侵略する為の装置でもありましたし、それらは、例えば大英博物館が標榜する百科事典的博物主義が高じた結果、必然的に至った思想でもありました。

 

ーーこの世のすべてを理性によって説明出来るなんて考えは、傲慢さへの一本道だ。ろくでもないよ。だから、神不在の英国のプレイングカードに神秘性を見出すなんて事があれば、それは単なる俗物主義だし、未だ幼稚な精神の現れであるとも言える。…とは言えその反面、あるいは反動か、英国は未だにオカルト思想も根強いし、ウィリアム・ブレイクのような傑物もまた存在している。それが救いではあるがね。

 

すると沿道に、巨大な『剣』が、塔のように地面に突き刺さって立っているのが見えて来ました。

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ーーすまない。少し横道に逸れたね。やや饒舌になったのは『剣』の影響を受けたのかもしれない。『剣』が目指すのはむしろ言語を排した “空(くう)” なる精神なのだが、それに至るにはまず言語と知性を、その鋭さを “鍛え” ねばならないからね。

 

剣を鍛えるように、ですか? と、丁度ピサの斜塔程度の角度に傾斜している剣を見上げながら昴さんにそう問い返すと、まさしく、と返って来ました。

 

ーー四つの元素はそれぞれあらゆるものに対応している。錬金術では『火』『風』『水』『土』。そして風水に於いては『朱雀』『白虎』『玄武』『青龍』…といった風に。そしてそれらは、人間性を構成する諸要素の説明でもある。つまりは『魂』『精神』『共感力』『肉体』だ。

 

車は剣の横を通り過ぎて行くところでした。吹き付ける風を切る音が、上空から聞こえて来ました。

 

ーーまずは『剣』。理性、言語、精神、知性、空(くう)… もつれ合い混乱する思考、戯言を一刀両断に鮮やかに断つ剣。快刀乱麻。つまりはロゴスの象徴だ。知恵の重要性を知る必要がある、という事だ。

 

あ、では、さっきの、河童の昴さんは…

 

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ーーそう、あの昴は『杯』の要素である『共感力』を教えに来てくれていたのだろう。本来はそうして修行して、四つの要素を『自在』とする必要がある訳だ。最初に『杯』が現れたのは、そうだな… 僕が無意識に、共感を求めていたから… なのかもしれない。…四つの元素には順番があって、それぞれが昇華しながらスワスチカ… つまりは、卍、風車、あるいは曼荼羅として、回転する様になっている。だからその際は順番が重要になるが、学び始めるのはどこからでもいいからね。…つまり、僕は多分、君に共感して欲しいんだと思う。こんな突飛な試みは、いくら言葉で説明しても仕方がないからね。

 

それこそ突飛な発言で人を煙に巻くのは、昴さんのむしろ得意技ではないかとさえ思っていましたので、やや意外な言葉を聞いた気がしました。ですが思えば確かに、どれだけ唐突で予測不能な発言に思えても、昴さんはいつも、昴さんの中で筋の通る事しか仰ってはいませんでしたから、単に見えている範囲が、見えている景色が人と違うだけなんだろうな… それも、圧倒的に。と、そう改めて思いました。

 

それにしても、他にもあんな昴さんが3人いる… そう思うと、彼らに会えないのは残念だと思いましたし、その姿をひと目見る為だけにでも、今一度修行をお願いするのも悪くないかもな、と思い始めていました。

 

そんな徒然を、昴さんのお気持ちのことを想っている内に、いつの間にか沿道には寺院のように巨大な『聖杯』が現れ、過ぎ去って行きました。

 

そして更にしばらくの間道を進むと、次に現れたのは、巨大な『杖』…長い、長い、長大な棒でした。

 

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ーーそして『棒』だ。これは原初的な魂の力の証しであり、意志の象徴であり、性的な力であり、創造性そのものでもある。つまりは性的衝動や情熱というものは魂の力と同質のもので、自分の力では増やしも減らしも出来ないものであるから、それを抑圧すべきではない。だが例えば社会奉仕というのもその表れのひとつである様に、性的な力というものは、人を慈しみ、癒す力や、あるいは芸術的創造性へと完全に昇華されることもある。大切なのは、自らの身体を通して発揮される宇宙的創造力への信頼と、その方向付け、という訳だ。

 

そうした説明を聞くと、思えば特に星組の面々等は、そうした魂の力が芸術的創造性へと上手く昇華されているのかもしれない、とそう思いました。巫女にして神子… 舞台上にある彼女達の超常性は、正に彼女達自身がそのような宇宙的エネルギーの経路… 境径(さかみち)となっているからこそ、発揮されているのかもしれない、と。

 

ーー…それにしても「棒の昴」がどんな様子なのかは、自分ではあまり見たくはないな…

 

棒の昴さん… つまりは情熱的で、性的な力と創造性が爆発した昴さん、という事か… とは理解しましたが、一体それがどんなご様子なのかは、昴さんの無意識のみぞ知る、といった次第でした。…とはいえ、最初はさっぱりであったにも関わらず、徐々にジャズセッション等でもご評価の高くなっていた昴さんでしたから、もしかすると普段の昴さんと実はそうお変わりないのでは、ともこっそり思いました。口にするのはやめておきましたが。

 

長大な棒を通り過ぎながら僕が思い返していたのは、いいジャズだった、スバル、とのひと言でした。ある時点で技巧のみへの拘りを捨て、 “瞬間” の純粋なる喜びに目覚めた昴さんのジャズプレイと「ソウル」を讃えるかの、“ドッチモ”・ザ・アームストロング氏のひと言でした。

 

そうこうする内に車は道路を進んで行き、やがて眼前に、唐突に巨大な壁が聳え立ちました。

 

車を降り、行き止まりですか? と問うと…

 

ーーある意味ね。だが違う。最後の関門である事に間違いは無いがね。よく見たまえ、何だと思う?

 

そう仰りながら壁を見上げる昴さんにつられて、こちらも上を見上げると、どうやら壁は遥か上空で円を描いている模様でした。そして、その様子を見て、そこでふと気付くところがありました。

 

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壁は、実は巨大な5セント硬貨だったのです。

 

ーーその通り。『貨幣』だ。そしてこれこそ、黄泉比良坂に置かれた『千引き石』『千引きの大岩』でもある。全く同質のものだよ。

 

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千引きの大岩… そう聞けば、改めてここは黄泉比良坂なのだという事が思い出されました。彼の世と此の世の境目、境径(さかみち)…

 

ーー言っただろう、『貨幣』に相当するのは『土、地』の元素でもある、と。即ちこれは、現世(うつしよ)、物質世界の象徴、『肉体的存在』の象徴なんだ。

 

肉体、物質の象徴…

 

ーー物質、とは、存在の最底辺の “ソコ” 、底面だ。つまりは、存在の出発点、あるいは神なるものからは一番遠い場所でもある。だがしかし、物質世界とはそれら宇宙的システムの、最終的な作用の結果、果実でもあるんだ。だからこそ、物質世界もまた想像界同様に重要なものであるし、掛け替えないものでもある。…ほら、なんだか良い香りがして来たね。

 

確かに、何か、バーベキューのような、良い香りがして来ました。気付けば、硬貨の麓は多くの出店で賑わっている様子でした。多くの食べ物があり、音楽が鳴り響き、踊りも踊られていました。そこには自らの肉体性を開放するようなエンターテインメントの数々がありました。

 

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ーー何か食べていくかい? 「神経痛」カツレツに、「肩こり」鴨南蛮、「頭痛」ソーダ水もある。食べるなり飲むなりすれば、その感覚を味わうことが出来るんだよ。物質界はめくるめく濃密な世界で、すべての感覚が喜びでもあるんだ。

 

その辺のものは遠慮しておきます、とひとまず辞退しました。物質界に戻ればいくらでも味わうことが出来ますし、とも付すと、それもそうだね、と昴さんも同意します。

 

それにしても、ここ周辺の見た目は、あまりにもくっきりしていて、極彩色でした。何というか…

 

ーー美しいね。美しい景色だ。

 

僕も同じく思っていました。猥雑にして濃密にして緊密。自分が普段認識している世界は、これ程までに濃いものだったのか、と、目眩がするかの思いでした。

 

ーー精神と物質はひとつ。重要なのは、世界を変える事は容易いという事だ。自らの精神を変えれば良いのだからね。ただ、物質世界は想像界よりも濃密なせいで、変化に時間がかかる。そのズレだけは意識しておくといい。

 

硬貨の中央に開いたアーチを潜り、先へと進みます。そうして “肉体の門” を潜り抜け『貨幣』を後にすると、後ろを振り返るようにと、昴さんが仰いました。言われた通り、後ろを、来た道を振り返ると…

 

巨大な女性の裸身が空に浮かんでいました。青い光輪を纏い、四つの従者を伴って。どこかで見た光景でした。あれはまるで…

 

ーー“世界 ( ザ・ワールド ) ” だ。背後に四つの元素の象徴が見えるだろう。存在の端、存在の果て。物質界は、創造界の彼岸にあるんだよ。

 

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月光に照らされた女性はゆっくりと、蛇と戯れながら踊っている様でした。

 

ーー蛇とは螺旋。つまりあれは、DNAと想像力の… 現実性(リアリティ)のダンスだよ。

 

我々は、いよいよ想像界の最初の入り口『イェソド(基礎)』の前にまで来ていました。

 

今一度前方を顧みれば、目の前には、月明かりに照らされた大きな川が広がっており…

 

そこには、渡し舟が待っていました。

 

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《続く》(次回最終回)

 

 

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