サクラ大戦V妄想回顧録

夢か現か…思い入れ深く『サクラ大戦』をプレイした結果、そこでの体験がリアルなもう一つの人生経験のように感じている…そういう方々が、実はプレイヤーの中には多々いらっしゃるのではないかと思います。サクラとはそんなミラクルが生じた作品であり、わたくしもそのミラクルにあてられた一人。そんなわたくしが、かつて“太正”時代に“経験”した事を記憶が混濁したまま綴ります。今思い出しているのは1928年以降の紐育の記憶。これは新次郎であり、現代の他人であり…という、人格の混ざった記憶それ自身による、混乱した、妄想回顧録です

セフィロトツリー:生命の樹を辿って / 想像力への想像力 / 九条昴問答⑤

 

rbr.hatenablog.jp

 

前回からの続きです。

 

茹だる熱帯夜。上空300m。当時建築中であったエンパイアステートビルディングの頂上付近、大きく中空に張り出したその剥き出しの鉄骨の突端で、昴さんと僕との哲学的問答は続いている… 

 

はずでしたが…

 

不思議な甘い香りと共に昴さんの周りに桃色の煌めきが舞い始めたと思った刹那、気付けば、僕と昴さんは、曰く『想像界』とでもいうべき、夢の領域へと足を踏み入れていました。

 

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ごく普通のアメリカの幹線道路に見えるその場所はしかし、物質界と想像界の境目であり、その本質は黄泉比良坂と同質のものであるとのことでした。

 

そして今、目の前の地面には、この『想像界』の “地図” が描かれていました。

 

まるで子供の落書きのようなそれを前にして、昴さんはこの先の道案内をなさる模様でした。

 

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もしかして、これでけんけんでもするんですか? 千変万化する奇妙な景色にも慣れ、少しは余裕が出て来たので、試しにそんな軽口を叩いてみました。

 

ーーしてもいいが、どこかで行方不明になるだろう。これはあくまで地図だから、踏み外してはいけないよ。

 

10個の円が並び、それらを線が繋いでいる… どこかで見た事がある図でした。

 

ーーこれは宇宙、あるいは人の魂の構造を示す回路図だ。古代ヘブライ人による知の結晶だよ。10個の円はセフィラという。セフィラというのは単に、数字、という意味だ。それを22の境径(さかみち)…パスが繋ぐ。セフィロトツリーという言い方もされるが、まあ、この場合名前に大した意味はない。重要なのは構造の方だ。

 

セフィラ… セフィロトツリー… そういえば以前、宗教関連の本だったか、あるいは三文パルプ誌だったか、物の本でこのような図を目にしたような気がします。

 

ーー構造自体は単純だ。というより、単純に捉えようとすればそう捉えられるし、複雑に捉えようと思えばどこまでも精緻になっていく。別にどちらでもいい。感覚に合った方を選ぶといいが、それには少しセンスが必要だね。

 

しかしそこで、遅ればせながら素朴な疑問が湧いて来ました。なぜ、この道の先へ行かねばならないのか? という事です。勝手に思案していても仕様が無いので、ひとまず率直にそう問うてみると…

 

ーー出来れば理解した方が良いが、必ずしも必要ではないよ。君にとってはね。…ただ、僕には必須だ。この経路を通ってどこまで至れるか。宇宙の根本原理をどこまで理解出来るか。原初の光に到達できるか。それらは、僕の表現行為の全てに関わってくる。それに…

 

僅かに表情を固くし、昴さんは呟くように仰いました。

 

ーー九条の使命にもね。…だが、うん。そうだな。やはり君は理解していた方が良いかもしれない。

 

と、先程の言をあっさりと翻す昴さんに戸惑っていると…

 

ーー“侵入者” はこの経路の合間から、針の穴を通るようにして、こちらにやって来るからね。セフィラとセフィラの間に落ち込んだ、紫外線のみが射す領域から。我々星組もいずれ彼らとは戦わねばならないだろう。その時、この経路が理解できていれば、想像と理性の力で奴らを退ける事が出来るかもしれない。それに…

 

その刹那、突如爆音が発し、唐突に周囲の景色が変じました。

 

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我々二人は、砲撃の飛び交う戦場に立っていました。

 

兵士、塹壕キャタピラー走行の初期スタア…

 

ガシャリという音に背後を振り向くと、五つの人型蒸気が佇んでいました。

 

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特徴的な十字型のモノアイレール、そして先頭に立つナイフ状の武器を把持した機体の色は見慣れた白銀色であり…

 

思わず隣にいる昴さんの方を見ると、先刻までの笑みはすっかり消え失せ、まるで何も感じていないかのような、色の無いご表情へと変じていらっしゃいました。

 

人型蒸気は紛れもなく「アイゼンクライト I 」でした。そしてこの光景は恐らく…

 

と、その時、五体の人型蒸気が一斉にこちらを攻撃して来ました。思わず昴さんを庇うようにしたものの、その攻撃は我々をすり抜け、我々の背後方向に位置していた目標を次々に爆砕して行きました。

 

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ーー例えば…

 

この光景は昴さんの記憶に他ならない事は明白でした。それは我々紐育星組に先立つ、もうひとつの星組、昴さんやラチェットさん、帝都花組の織姫さんやレニさんも幼少のみぎりに参加していたエリート部隊・欧州星組。それは彼らの、欧州戦線の記憶だったのだと思います。

 

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街ひとつを壊滅させる程の戦果を揚げた後、僅か半年で解散。

 

昴さんにとってそれがどの様な意味を持つ記憶なのかは測る術もありませんでしたが、特に感じるところなどない、とでも言わんばかりの淡々とした態度で、昴さんはお続けになられていました。あるいは僕の目には、それは何かを受け流すような姿勢である様にも映りましたが、果たして本当のところは分かりませんでした。

 

ーー例えば… 戦争、とは、決して人類の業でもなければ、繰り返される宿命にある歴史でも無い。あんなものは、帝国主義がまかり通った時代まで致し方なく必要とされた、古い時代の、単なる外交手段だ。最早他国を征服して生産力を上げることを是とするような国際世論が復活する事など有り得ないし、今現在の社会システムの不協和を逐一解決する事を目指して行きさえすれば、不要な手段とすることが出来るのは自明の理というものだ。多くの者が宗教問題だと誤解している多くの紛争の根さえ、実際には我が米国が世界に押し付けた “現代” という社会システムへの反論であるのだしね。そして…

 

戦場を駆ける五体の機影を無視し、昴さんは尚も続けます。

 

ーー全ての暴力とは、想像力の失敗であり、敗北に他ならない。

 

そうして昴さんが “失敗” と口にした次の瞬間、戦場の音がふと消え去り、我々は元いた国道に戻って来ていました。

 

ーーだから… やはり、大事なことなんだ。想像界との繋がりを保つことは。物質的次元だけを現実だと捉えていては、いずれ物質に振り回され、絶えず飢える事になるだろうからね。

 

その昴さんの説明で、なぜこの先に進む必要があるのか、という点は納得出来ました。つまりは、あらゆる暴力を無用とする為にも、想像力への想像力を持つ必要があるのだ、と。

 

そして恐らくは、そのような新たな可能性のきざはしを、その “予感” を感じ取る必要があり、その為には、この夢のような領域もまた現実だと知る必要が… 想像する必要があるのだと、自分なりにそう理解しました。

 

ーーでは、改めて地図を見てみよう。往く先を確認するんだ。

 

昴さんに促されるまま、二人して地面に屈み込み、そこに描かれている “地図” を検分します。

 

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ーー地図の一番下の円を見て欲しい。“10” と番号が振られているだろう。そこが『マルクト(王国)』。我々が普段認識している物質的世界だ。その円から脱出し、上に昇ると、そこから先は既に想像界となる。…ちなみに “昇る” というのは比喩表現だという事は、黄泉比良坂の話をしたから、分かるだろう? 天に昇っているようで、同時に、降っている、という事でもある。理性の光で空(くう)へと到達しようとしているのでもあるし、同時に、無意識の領域へと深く潜っているという事でもある。

 

昇っているようで、降っているようで… 確かに我々は黄泉比良坂を進もうとしているのだ、という事を、改めて思いました。

 

そして昴さんが仰っていた通り、その地図は精緻に見ようとすると実際にそう見えるようで、目を凝らす程に、落書きに説明の文字が書き足されて行きました。

 

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ーーそしてここ『マルクト(王国)』から、上に向かって3本の線が伸びているだろう。この3本の線こそが、今いるこの三叉路だ。左側の『シン』の径(みち)を通れば、その先は『8』番セフィラ、『水星』『ホド(栄光)』へと辿り着く。そして右側… 僕がいつも使っている『クォフ』の道を往けば、その先は『7』番セフィラ、『金星』『ネツァー(勝利)』に辿り着く、という訳だ。

 

では、今僕たちが進もうとしてるのが…

 

ーー真ん中の『タウ』の道だ。この径を進めば、『9』番セフィラ、『月』『イェソド(基礎)』に辿り着く。で、普段僕がこの道を使わないのは、行った先が問題でね。『イェソド(基礎)』とはつまり、想像界の始まり、基礎にあたる場所で、左右の二つに比べて、比較的多くの人に馴染みのあるはずの場所なんだが…

 

馴染みがある?

 

ーーつまり、夜寝ている時に見る、夢の領域だ。実は多くの人は、毎晩ここに帰って来ているんだよ。意識してはいないけれどね。だが今の我々のように、さらにその先にまで進むべく精神を研ぎ澄ませる必要がある場合には、この領域に深く馴染まなければならない。そして…

 

昴さんは、一拍間を置いてお続けになられました。

 

ーーそこは豊かな想像力の領域で、まさしく “月” の光に照らされた、夢と虚構の世界なんだ。つまりは、性的幻想と無意識の領域、という事だ。想像力と、そして、ロマンス。性的な夢想、幻想こそが、想像界への入り口、という訳だ。

 

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説明を受けて赤面する羽目に陥ったのは言わずもがなです。ですが、仰っている事は理解出来ました。ロマンス… 確かに、人が最初に想像力を働かせるのは、そこからかもしれません。

 

ーー正直なところ、僕にはあまり馴染みのない領域でね。だから、いつもは『ネツァー(勝利)』を経由していく必要があるんだ。ただ、こちらは正直、難易度が高くてね。一挙にレベルが上がる。形や形態という知的概念の先に旅する必要があるし、感情の海の大轟音を体験する必要がある。それは喜びでもあるが、苦しみでもあるからね。ともかく…

 

地図上、中央の道を行った先の円を指し示しながら、昴さんは仰いました。

 

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ーー今回はこの『イェソド(基礎)』を目指そう。中央の『タウ』の径を進んで。

 

そうして立ち上がりながら、昴さんは仰いました。

 

ーーだから、教えて欲しいんだ。…ロマンスというものを。

 

事もなげにそう仰り、こちらを見つめる昴さんの瞳はごく真剣で、どうしたものか、と弱りました。

 

ですが、実はその時点で既に、本当は昴さんも “ある感覚” をご存知なのではないかという気はしていました。ですので後は、どうやって気付いてもらうべきか、それが問題ではなかろうか、とは、思っていたのですが…

 

 

《続く》(残り2回)

 

 

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