10.シャネルNo.5 / 時代を啓くプラム・スパニエル
そういえば、プラムさんはドリンクバーでウェイトレスをしていたわけですけど…。こう…ローラースケート靴を履いて。カーっと客席の間を華麗に走り抜けながら、品物を運ぶわけです。
で、印象的だったのが、プラムさんが横を滑走していくと、その瞬間、フッといい香りがするんですよ。単にいい香りというか…華やかなんだけど上品な、すごく特徴的な香りなんですけど…
ちなみにドリンクバーというのは、今の日本のチェーンレストランでよくあるアレではなくて…w もっとカフェバー的な場所です。リトルリップ・シアターのカフェスペースということですね。サンデーが名物で、僕も大好きでした。
あ、もちろん、プラムさんの香りはドリンクバーの邪魔にはなっていませんでしたよ。邪魔になる程の品のない香りの付け方は、決してなさらない方でしたから。
《Georges "Sem" Goursat,1921》
ええ。シャネルのNo.5をご愛用でしたね。たぶん一般に売り出し始めた、本当に直後ぐらいだったと思います。一番最初に人気に火がついた、そう言う頃合いだったんじゃないでしょうか…。その後度々有名になったりして、今だにずっとNo.5の人気は衰えていませんけれども…本当にすごいことだなと思います。
だけどプラムさんは、そうやってNo.5がアイコン的な人気を博す以前に、最初に使い始めた人のひとりでしたらから、そこはやはりプラムさんというか、さすがでしたね。
で、たぶん他にもいくつか…彼女のお気に入りには種類があったと思うんですが…少しだけムスクなニュアンスのある香りが多かったかな…
あの頃はまだ、女性の香りはフローラルなものが基本で、もっと言ってしまえば、それが常識って感じでしたから…そうでなければ、モロに麝香に龍涎香に…という風でしたから、中間というか、ハイブリッドな香りを纏うのは、当時としては、かなり挑発的だったかもしれません。
だけど…だからこそ、その挑発的でありながら上品な香りを堂々と纏うプラムさんは、颯爽としていて、本当にかっこよかったんです。
今にして思うと、あの香りはそれだけで、世間の無意識の抑圧に対する、反抗になっていたような気がします。プラムさんは、ある品格を保ちながらも、新たな時代を標榜するかのような挑戦的な香りを纏うことで、古い抑圧に対して涼やかに反旗を翻していた…
そして…フロアを切り裂くように、ローラースケートで華麗に滑走することで、まさしく時代を切り啓いていたんだと思います。
…そう…プラムさんの姿がいかに革新的であったのかについては、次回また、もう少しお話ししようかと思います。