4.同じ街中、別のストリート

シアターで働き始めた頃、ジェミニと僕は都会に出てきたばかりで、二人とも右往左往してて…という風に以前言ったと思うんですが…ジェミニの場合は比喩でなく、実際に右往左往してたんですよね…w

間借りしてたアパートの場所も、僕とジェミニは近かったんですけど…あれは…それこそ初日とかだったと思うんですけど…自分のアパートの場所がわかんなくなっちゃったのか、こう、ジェミニがその辺をウロウロしてたんですよ…

手に持ったメモを睨みながら歩いてるんですけど…もう…すごい絶望…みたいな顔して、眉根に皺を寄せて、口も半開きで…w　手に持った紙切れ、あれ本当はブードゥー教の呪いのお札なんじゃ…と思うくらいの感じで…w

あれ？あの子シアターの子だよな…って思いはしたんですけど…声をかける前に、フラフラ～…っと割と危なそうな通りに入って行っちゃいそうになちゃってて、僕もう、慌てて追いかけて。

どうしてアメリカの女の子を日本人の僕が道案内してるのか…っていうw

そう、アメリカ…まあ外国はしばしばそうですけど…“通り”、ストリートがひとつ違うと、もう全く別世界だったりするんです。ここまでは安全、だけど、ここから先は急に危険になる、とか。はっきりと何か明確な縄張りがあるとか、そういうわけじゃないんですけど…何か空気の違い、みたいなものがあるんですよね…

例えば、ダイアナさんの地元のボストンなんか特に有名ですけど…　ええ、ボストンです。ダイアナさんも英国系の人だし、なんとなく、そういうイメージがありますよね？　ボストンティーパーティー事件でも有名ではありますけど、まあその、英国調の街並みがあって、アメリカの中でも比較的落ち着いた、素敵な街っていうイメージ。

ハーバード大とか、マサチューセッツ工科大とかもあって。あ、ダイアナさんはボストン大の出身ですね。

なんだけど、川を渡って南側、サウスボストンはすごく危険なところで。まあ、港があるから、その関連で、アイルランド系のマフィアが一大勢力になってたりとか、そういうことがありましたね。

あ、でももちろん、アイルランド系の人たち全般は普通に暮らしていらっしゃる方々で、皆さん本当に良い方々ですけれども。近場にあったすごく良いお肉屋さん…ネルソンズブッチャーさんなんかも典型的なアイリッシュ系のお店でしたし。

緑色…翡翠色というのかなぁ…独特の、美しい翠色がポイントでね。お国の伝統色という事なんですけれども。…もちろんその…移民としての苦難は多々あっただろうとは思いますが…というわけで、僕は好感を持ってるんですが。ネルソンさんのところの息子さんは後々弁護士さんになったりしてね…。まあ、この話はまた別の折に。

ともかく、ほんの少しの区画の違いで全く別世界になるという。そういう形で、棲み分けがされてたりしますよね。なんだけど、ジェミニはそんなこと無頓着だから、危なっかしくて…w

ただ、今にして思えば、ジェミニにはいつも最強のボディガードがついてたわけですけど。…ええ。仮面の剣士、仮面の侍ですね。

…最初はやっぱり…びっくりしましたね。フッ…と呼吸が変わるんですよ。なんというか…まあ、ありえないことなんですけど、強いて言うなら、彼女が今吸おうとしていた空気と、吐こうとする空気が、ぶつかった…？という感じで、瞬間、フッと仮面の剣士が…ジェミニンが顔を出すんです。で、僕に斬りかかってくるという…w

…

今でこそ、お互いが存在を受け入れて、ジェミニたちは一人になりましたけれど…やっぱり、彼女の中には、今でも彼…あるいは、やはり彼女…がいるんだと思います。それこそ、明確な境界線はない、だけども何か、棲み分けがあるような…

いずれにせよ、彼女は本当に素晴らしい人で、みんなありのままのジェミニが大好きですから。…もちろん僕もそのひとりですし。

彼女の中の、もうひとりの彼女/彼も含めて、全部がジェミニなんだと思います。それこそ、紐育のような街がそうであるように。だからこそみんな、街を丸ごと愛するように、ジェミニのことも愛してるんです。…もちろん僕も…　

…んー…何度も付け足そうとすると、野暮な感じがしますね…w

あ、流行りましたね、野暮…w　ヤボー！…w　プラムさんも杏里くんもキレ良かったですね…w　こんな話で終わるのもなんですけども…w